大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和47年(む)228号 決定 1972年7月08日

被疑者 島村昭治

前田勝雄

決  定

(被疑者氏名略)

右の者らに対する傷害致死等被疑事件につき、昭和四七年七月八日裁判官がなした勾留の裁判に対し弁護人菅野泰(島村)、同長谷川幸雄(前田)から適法な準抗告の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各準抗告をいずれも棄却する。

理由

第一申立の趣旨

原裁判を取り消す。

本件勾留請求を却下する。

第二申立の理由

一、被疑者らはいずれも昭和四六年九月一六日の成田天神峰一一三番地先通称東峰十字路付近での警察官に対する兇器準備集合被疑事件で既に逮捕勾留されており本件勾留請求は同一の犯罪事実についての不当な勾留のむしかえしであり違法である。

二、本件勾留は取調を目的としたもので本来の勾留の目的を逸脱したものであり違法である。

第三当裁判所の判断

関係記録によれば本件被疑者に対しては、前に本件勾留請求の被疑事実(傷害、傷害致死)の犯行日時の前後にまたがる兇器準備集合および公務執行妨害について逮捕、勾留されており、その経過は別紙のとおりである。そして、前件の兇器準備集合と本件とは併合罪の関係に立つとはいえ、(弁護人は兇器準備集合と本件被疑事実が牽連犯であると主張しているが当裁判所は右の見解はとらない。)社会的事実としては時間的、場所的にも重なつており、また前件の公務執行妨害と本件の傷害、傷害致死とは一所為数法(刑法五四条一項前段)にあたり、いずれにしても前件の捜査に際しては必然的に本件をも包含して行なわれたと認められる。したがつて、本件の逮捕および勾留の請求はいわゆる再逮捕および再勾留の請求と考えて妨げないが、一般に再勾留についてはこれを全く許さないものとすることなく、先行の勾留期間の長短、その期間中の捜査の経過、身柄釈放後の事情変更の内容、事案の軽重その他の諸般の事情を考慮し、身柄拘束の不当なむしかえしでないと認められれる場合にはこれを許すと解してよい(東京地裁昭和四七年むのイ二一一号、同年四月四日刑事一一部決定等参照)。

そこで本件について検討してみると、前件の勾留時においては被疑者について公務執行妨害について一応の態様は判明していたものの、これと一所為数法の関係にある傷害、傷害致死については実行行為者が何びとか全く判明せず、被疑者らの関与の度合いなど明らかにならなかつたため検察官も被疑者らの勾留中に公務執行妨害の関係では起訴を一たん断念したところ、その後数ヶ月余の捜査の結果、とくに傷害、傷害致死の容疑を裏づけうる新たな証拠が収集され再び本件逮捕および勾留請求に及んだことが認められる。そして、本件が前件とはるかに異る重大な犯罪容疑であること、前件の勾留による捜査時からは数ヶ月を経ており、いわゆる逮捕勾留のむしかえしと評価されるものではないこと、任意捜査によつては真相の発見に困難な事情にあること等にかんがみれば、再逮捕、再勾留を認めうる場合と判断される。もちろん被疑者について罪を犯したと疑うに足りる相当な理由および刑訴法六〇条一項二号の事由が存し、かつ勾留の必要性において欠けるところはない。

弁護人のるるの所論はすべて採用できず、原裁判は相当である。

よつて刑訴法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

別紙

氏名

前回の逮捕・勾留・起訴

備考

逮捕

勾留請求・勾留

起訴

年月日

罪名

年月日

年月日

罪名

年月日

罪名

島村昭治

46・12・8

兇準

公妨

46・12・10

46・12・10

兇準

公妨

46・12・11準抗告棄却

46・12・17勾留延長、46・12・29まで

起訴なし

前田勝雄

46・12・8

兇準

公妨

46・12・10

46・12・10

兇準

公妨

46・12・29

兇準

46・12・17、46・12・23各勾留延長、

46・12・29まで47・1・5保釈、47・1・6釈放

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例